
ペットボトル時代の講師論と持続可能な台湾茶
お茶は、いま史上最も飲まれています。
なのに、それを作る手は史上最も細っている。
この矛盾を、教える私たちは、きちんと説明できるでしょうか。
■ RTDのパラドックス
飲料市場では、RTD(Ready-to-Drink=ペットボトルや缶入りの、すぐ飲める茶飲料)が圧倒的なシェアを占めます。
この巨大市場は、確かに「茶」を日常語にしました。
しかし、そのコスト圧は原料の単価を押し下げます。
手摘みや、高度な萎凋(いちょう=しおれさせて香りを引き出す工程)・発酵を要する烏龍茶の作り手ほど、割に合わなくなる。
このままでは、テロワール(産地ごとの個性。台湾茶でいう「山頭気」に近い概念)や茶韻が、記録の中にしか残らなくなるかもしれません。
■ 先行された方々への敬意と、現場からの視点
まず申し上げます。
文献を丹念に翻訳し、中国茶・台湾茶を日本へ紹介してこられた先人の功績は、私たちの土台です。
ここに深く敬意を表します。
その上で、私が大切にするのは、翻訳の先にある現場です。
私は百年続く家業に生まれ、父・林秀峯(四代目)の眼を継ぎ、茶山に立ち、職人が分単位で下す判断を見て育ちました。
文献より、自分が触れた一枚の茶葉を語りたい。
『現場 × 標準 × 科学』、この三層を貫くことが、私たちの差別化の核です。
■ 講師の新しい役割──”味の地図”を手渡す
私たちの役割は、「茶壺」(急須)と蓋碗(がいわん)の美しい扱いを教えることだけではありません。
現代の暮らしと、伝統の茶産業をつなぐ橋渡しになることです。
その要が、客観的な評価の言葉です。
TBRS台湾茶風味輪は、香りと味を体系化した”風味の地図”。
暗記表ではなく、自分の感覚を指でたどる地図だと考えてください。
官能評価=評茶(ひょうちゃ=色・香・味を基準に沿って判定する手法)も同じで、感覚を共通の言葉に翻訳する技術です。
具体的には、「日常茶」の再定義です。
蓋碗や「茶壺」(急須)の価値を伝えつつ、茶こし付きマグやタンブラーでの抽出も積極的に伝える。
「本格的な茶葉は、特別な道具がなくても美味しく淹れられる」──
この事実こそ、消費者をペットボトルから茶葉へ戻す、最も現実的な入口です。
私自身、台湾・農業部「茶及飲料作物改良場」の風味輪テキスト日本語版に編集協力し、感謝状を頂戴しました。
専門の知を”伝わる日本語”にする。それも、講師の仕事だと考えています。
■ 「1:50」という、共通の物差し
標準は、現場と科学をつなぐ物差しです。
たとえば評茶の世界では、茶葉と水の比率を1:50に揃えて審査します。
産地も淹れ手も違えば味は変わる。
だから条件を固定して、はじめて茶の実力を公平に比べられるのです。
その土台には、茶の分類を定めるISO 20715:2023、台湾のCNS、中国のGBという三層の規格があります。
利便性を否定する必要はありません。
現代の道具を使いこなしながら、本物の茶葉の価値を届ける。
この一手が、細りゆく作り手を支え、茶文化を次代へ渡します。
皆さんなら、この現場に、どんな一手を打たれますか。
三層規格(ISO 20715:2023 × 台湾CNS × 中国GB/T)の項目別対照と、評茶プロトコルの実技は、
今年、講師の皆さん向けにブラッシュアップ講座の教材『評茶の物差し──三層規格・項目別対照ノート』で精密に扱う予定です。
(一社)中華茶講師協会 理事長・五代目店主 林 聖泰 より
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◎ 台湾茶の水出しと茶漉付マグカップの完全ガイド』
https://www.chinatea.co.jp/chatea-blog-20260707/
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この真っ白な景色を見るだけで、不思…
▶︎ 『ChaTea五代目の茶館ノート』
台湾・中国・日本へと続く「茶を囲む場所」の物語を、半年ほどかけて、
毎週一回のペースで少しずつ公開し、 読者のみなさまと一緒に育てていくためのものです。
テーマは、茶藝館、茶館、茶空間。 茶藝館とは、ただお茶を飲む店なのでしょうか。
この問いを出発点に、台湾の茶藝館、中国の茶館、そして日本で茶文化の場をどう育てるかを、
茶旅するようにたどっていきます。

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