
〜文化の日に問う、茶講師の仕事。2027年 年間インストラクター養成講座、再始動〜
(2026年11月3日・文化の日 一般社団法人 中華茶講師協会 理事長 林 聖泰)
240年前の文人が書き残した、評茶の作法
上口不忍遽咽,先嗅其香,再試其味。
(袁枚『隨園食單』茶酒單「武夷茶」)
口に含んでも、すぐには飲み込まない。まず香りを嗅ぎ、それから味を確かめる。
清の文人・袁枚は、もともと武夷の茶を「濃く苦く、薬のようだ」と嫌っていました。
考えを改めたのは、丙午の年、1786年の秋のことです。
武夷山を訪ねた袁枚は、胡桃ほどの小さな杯と、香櫞(シトロン)ほどの小さな壺で淹れられた茶に出会います。
茶の産地は、同じ武夷です。
変わったのは、淹れ方と、味わい方でした。
私はこの一節を、評茶の原点だと考えています。
急いで飲み込まず、五感を順に開いていく。
その姿勢があってはじめて、茶は本当の顔を見せてくれます。
茶藝の美しさを、茶の言葉で支える
私自身、中国茶藝師として茶席をつくり、茶藝の美しさに何度も心を動かされてきました。
整えられた茶器、無駄のない所作、凛とした静けさ。茶席は、茶を愛する人の心を映す場です。
だからこそ、あえて問いかけたいのです。
「美しく淹れられる人」と「茶を語れる人」は、同じでしょうか。
たとえば、文山包種茶と高山烏龍茶。
どちらも、青心烏龍(学名 Camellia sinensis (L.) Kuntze var. sinensis ‘Chin-Shin Oolong’/中国語名 青心烏龍/日本語慣用名 チンシンウーロン)を代表品種とする台湾の烏龍茶です。
それなのに、文山包種茶は細くよじれた条形で、高山烏龍茶は丸く締まった球形。香りも余韻も、まるで違います。
産地の標高と気候、萎凋と発酵の度合い、揉捻のしかた。
同じ品種でも、どこで、どう作るかで別の茶になる。
その「なぜ」を受講生にわかる言葉で説明できるか。
それが、講師の仕事です。
茶講師に必要な「三つの目」
一、茶を見極める目。
外形・湯色・香気・滋味・葉底。
中国の国家規格 GB/T 23776-2018『茶葉感官審評方法』の審評因子に沿って、品質を根拠とともに判断する力です。
二、茶の背景を読む目。
品種、産地環境、製茶工程、流通、歴史、品質規格。
一杯の背後にある長い旅を、ひとつながりに理解する力です。
三、人を育てる目。
相手の経験や関心に合わせて、難しいことを、やさしく楽しく伝える力です。
茶藝は、この三つの目に支えられたとき、いちばん豊かな表現になると私は考えています。
AIが答えを出す時代に、講師が担うこと
いまは、AIに尋ねれば、茶の歴史も製茶工程も数秒で整理されて返ってきます。
講義資料づくりにも役立つ、心強い道具です。
けれども、AIがある茶を「蘭の香り」と説明しても、目の前の一杯にその香りがあるとは限りません。
風味輪の用語を覚えても、それだけで香気を嗅ぎ分けられるようにはなりません。
嗅ぎ、飲み、比べ、言葉にする。
自分の判断を仲間の判断と照らし合わせ、もう一度確かめる。
袁枚が武夷山でしたことを、私たちはいまも繰り返しています。
知識はAIが運んでくれる。判断を下すのは、人の五感です。
父から受け継いだ「誠実」
私事ですが、昨年、台湾で父・林秀峯を見送りました。
最後の日々に寄り添うため、日本での講座を一時お休みしました。
父が茶の仕事で示してくれたのは、技術よりも先に、茶葉と作り手への敬意、そしてお客様への誠実さでした。
その精神を、これからの講師教育の芯に据えます。
2027年、年間インストラクター養成講座を再始動
1999年1月に開講した年間「台湾茶・中国茶インストラクター養成講座」(主催:日本華泰茶荘)を、
2027年、新しい教育体系で再開します。
これまでの年間講座は、月1回・一年をかけた学びでした。
毎回のテイスティングで品質判断力を鍛え、春の高山烏龍茶か秋の東方美人茶の製茶旅行で、産地に立って自ら茶を作る。
研究論文をまとめ、卒業試験の茶藝・茶席創作試験で一年を締めくくる。
この骨格を生かしながら、中身を全面的に作り直しています。
新しい講座で特に重視するのは、次の四つです。
- 茶葉を知る —
品種・栽培・製茶・品質規格・流通・市場を、体系として理解する。 - 茶を見極める —
評茶と台湾茶風味輪で五感を鍛え、官能評価と科学的知見を結びつける。 - 茶を表現する —
茶葉の個性に合った抽出と茶席設計で、その魅力を伝える表現力を磨く。 - 茶を教える —
授業設計と教材づくり、対面とオンライン学習の組み合わせ、AIの適切な使い方を学ぶ。
あわせて、対面とオンライン学習を組み合わせた新しいプログラムも作成中です。
正式なカリキュラム・日程・受講料・説明会は、決まり次第この協会ブログでお知らせします。
「知っている」から「判断できる」へ。
「淹れられる」から「教えられる」へ。
「学ぶ人」から「文化を手渡す人」へ。
すでに講師として活躍されている会員の皆さまにも、新しい学びの視点を届けたいと考えています。
薪火相伝——火を、次の薪へ
『荘子』養生主に、「指窮於為薪,火傳也,不知其盡也」という一節があります。
薪は燃え尽きても、火は次の薪へ移り、尽きることを知らない
。「薪火相伝」の語は、ここから生まれました。
伝統を守るとは、古い教科書を繰り返すことではありません。
先人の知恵を新しい知見で確かめ直し、次の人へ手渡すこと。
そして、教える人自身が学び続けることです。
茶を教えるとは、茶への好奇心に火をともすこと。
2027年、その火を、もう一度大きく灯します。
以茶会友。薪火相伝。
一般社団法人 中華茶講師協会 理事長 林 聖泰
2027年の茶講師を目指す皆さまへ
① 11月14日(土)・15日(日)台湾茶・中国茶のプロ養成講座(2日間集中)
2日間で36種以上の中国茶・台湾茶を、講義と実技で。年間講座の土台となる淹れ方と品質鑑定を、少人数の対面授業で学びます。
- 日時:2026年11月14日(土)・15日(日)10:00〜17:30
- 会場:華泰茶荘 渋谷店 3F 茶藝館
- 受講料:66,000円(税込)
- 修了特典:
NPO法人中国茶文化協会認定「中級中国茶アドバイザー」資格
一般社団法人 中華茶講師協会認定「中国茶インストラクターコース」受講資格
講師・林聖泰による修了証書
▶ <台湾茶・中国茶プロ養成集中講座>の詳細・お申込み
② 2027年 年間「台湾茶・中国茶インストラクター養成講座」(主催:日本華泰茶荘)
新カリキュラムと新プログラムを作成中です。
募集要項・説明会は、決まり次第ご案内します。
③ 1月17日(日)日本華泰茶荘30周年記念
新年茶会『天地人韻 × 歳月風華』
第一部は品評会受賞茶で、発酵と焙火の段階を。
第二部は15〜50年の老茶で、熟成の作用と老茶の鑑定法を。
評茶の視点で味わう茶会です。木柵正欉鐵觀音の「音韻」、30年武夷岩茶の「岩韻」。
審評術語が指す感覚を、実際の一杯で確かめる機会です。
袁枚が武夷山で知った「先嗅其香,再試其味」を、ぜひ茶杯の前で。
- 第一部 10:00〜12:00(9:30開場)/第二部 14:00〜16:00(13:30開場)
- 会場:華泰茶荘 渋谷店 3F 茶藝館
- 参加費(税込):各部 7,260円/全二部 13,860円
▶ 残席わずか!<2027新年茶会>の詳細・お申込み

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