『ChaTea五代目の茶館ノート7』最初の一煎を、急がないで

──茶藝館でのお茶の楽しみ方

運ばれてきたお茶を、ぐいっと飲み干す。
気持ちはわかります。でも、それがいちばんもったいない飲み方なんです。
茶藝館の楽しみ方、いちばんの基本を、ご一緒に。

茶藝館に座って、運ばれてきたお茶を、のどが渇いたときの飲み物みたいに、ぐいっと飲み干してしまう——
気持ちは、とてもよく分かります。
でも、じつはそれ、いちばんもったいない飲み方なんです。
茶藝館でのお茶は、一杯で終わる飲み物ではありません。
一煎ごとに表情を変えながら、時間をかけて付き合っていくもの。
だから、楽しみ方のいちばんの基本は——
「最初の一煎を、急がないこと」なんです。

どうして急がないほうがいいのでしょう。
茶藝館で出てくるのは、たいてい工夫茶(功夫茶/こうふちゃ)というスタイルです。
小さな急須に、たっぷりの茶葉を入れて、短い時間で何度も淹れる。ひとつの茶葉が、
一煎目、二煎目、三煎目……と、五煎、七煎と続くうちに、香りも味も、少しずつ姿を変えていくんです。
最初の一杯でぐいっと飲み干してしまうと、その長い“変化の物語”を、まるごと見逃してしまう。
ドラマを第一話だけ観て消してしまうような、もったいなさなんですね。

だから、こんなふうに過ごしてみてください。

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       『最初の一煎を急がない理由』(林聖泰作成)

まず、淹れる前の、乾いた茶葉の香りを聞いてみましょう。
手のひらに少し取って、鼻を近づける。それだけで、これから始まる時間の予感があります。

次に、最初の一煎。ここはていねいに淹れて、まずはひとくち、そのお茶の「素顔」を確かめます。烏龍茶なら、聞香杯(もんこうはい)の出番です。背の高い細い杯に注いで香りを移し、味は品茗杯(ひんめいはい)でいただく。
空になった聞香杯に残った香りを聞くと、味とはまた違う、もうひとつのお茶の表情に出会えます。

そして、二煎目、三煎目。ここからが、本当の楽しみです。一煎目では固かった香りがほどけて、味が開いて、やがて落ち着いた甘みが顔を出す。
同じ茶葉とは思えないくらい、一煎ごとに違うんです。その移り変わりを、急がず、ゆっくり追いかけていきましょう。

良いお茶には、飲んだあとの“ごほうび”もあります。
飲み込んだあと、のどの奥からじんわり戻ってくる甘み——これを回甘(かいかん)といいます。
そして、飲み終えてもなお、口の中と鼻に長く残る香りと、余韻。この「あとから来るもの」をどれだけ感じられるかが、お茶の質を映す、ひとつのものさしでもあるんです。
急いで飲んでしまうと、この回甘も余韻も、味わうひまがありません。

お茶は、ひとりで静かに味わうのもいいですが、誰かと分け合うと、もっと豊かになります。
同じ席の人と、ひとつの茶葉を何煎も分け合いながら、とりとめのないおしゃべりをする。
気づけば、午後がまるごと過ぎている——
茶藝館は、そういう時間の流れる場所です。

ここまで来ると、分かっていただけると思います。
茶藝館でのお茶は、「飲む」というより「過ごす」もの。
最初の一煎を急がないというのは、つまり、時間を急がないということ。
そして前回お話ししたとおり、茶藝館が売っているのは、まさにその「急がない時間」そのものだったんですね。

だから、茶藝館でのいちばんの贅沢は、特別に高い茶葉でも、立派な茶器でもありません。ただ、ゆっくりすること、
それ自体なんです。
一煎一煎を急がず、香りを聞き、味の移ろいを追い、回甘と余韻を待つ。
その時間こそが、茶藝館がいちばん大切に差し出しているものだと、私は思います。

次回は、その「ゆっくりした時間」の、もう一歩奥へ。
茶藝館では、ただ楽しむだけでなく、台湾茶藝そのものを学ぶこともできます。
「茶藝」と「評茶」は、何が違うのか——
華泰茶荘の講座のお話とあわせて、ご案内しますね。
(文章・図表:中華茶講師協会理事長・華泰茶荘五代目店主 林 聖泰)

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