
――スーパーの棚から読む、台湾食文化と「香り」の現在
台湾の茶文化を学ぼうとすると、私たちはまず茶園、茶工場、茶藝館、茶葉専門店へ向かいます。
もちろん、それは大切です。
しかし台湾へ戻るたび、私がもう一つ必ず見ておきたい場所があります。
それが、普通の人が買い物をするスーパーの食品売場です。
今回訪れたのは、長年台湾の人々に親しまれてきた「家樂福(カルフール)」。
2026年7月から量販店は「萬家福」、スーパーは「樂家康」へブランドが変わり、「家樂福」という名前は台湾の小売市場から姿を消しました。(買収合併された社会事件)
しかし、今回歩いた売場にはまだ旧ブランド時代の面影も残っていました。
その棚を眺めながら、私は改めて思いました。
食文化を知りたければ、専門店だけではなく、スーパーを見るべきだ。
豆漿の棚から見える「台湾人の味覚」
最初に目を引いたのは豆乳や穀物飲料です。
原味豆漿、高カルシウムタイプ、黒豆乳、米漿、紫米・燕麦を使った飲料など、さまざまな商品が並びます。
ここで興味深いのは、
「台湾人は豆漿を飲む」ということだけではありません。
無糖。
濃厚。
カルシウム。
黒豆。
穀物。
天然素材。
商品の正面に何が大きく書かれているのかを見るだけでも、消費者が飲料に求めているものが少し見えてきます。
これは、台湾茶の現在を考える時にも重要です。
現代の消費者は茶だけを飲んで生活しているわけではありません。
コーヒーも飲む。
豆乳も飲む。
穀物飲料も飲む。
それらすべての経験の中で「香り」「甘さ」「濃さ」「健康感」を判断しています。
茶を理解するなら、茶以外の飲料にも目を向ける必要があります。
沙琪瑪(サーチーマ)、煎餅、捲心餅を「香り」で見てみる
お菓子売場も、評茶を学ぶ人にとって面白い場所です。
今回の写真には、沙琪瑪、煎餅、捲心餅など、台湾で昔から親しまれてきた菓子が並んでいます。
落花生。
杏仁。
南瓜子。
黒糖。
葡萄。
珈琲。
これらを単に「お菓子の味」として見るのではなく、
香りの記憶を増やす教材として見ることもできます。
たとえば落花生を焙煎した香り。
小麦を焼いた香り。
黒糖の甘い香り。
ナッツの油脂感。
こうした日常の香りの記憶が多ければ多いほど、茶を飲んだ時に感じた香りを言葉にしやすくなります。
評茶とは、難しい専門用語を暗記するだけではありません。
日常生活の中で、
「この香りは何に似ているだろう」
と考える習慣を持つことも、とても大切なのです。
米売場を見ると「品種」という考え方が見えてくる
さらに興味深いのが、台湾米の売場です。
今回も「芋香米」など、独特の香りや品種特性を前面に出した商品が並んでいました。
ここで茶を学んでいる方なら、すぐに共通点に気づくはずです。
茶も米も、農産物です。
同じ「台湾産」であっても、
品種が違う。
栽培環境が違う。
加工方法が違う。
その結果、香り、味、食感が変わります。
台湾茶でも、
青心烏龍。
金萱。
四季春。
青心大冇。
品種を知ることで、同じ「台湾茶」という大きな括りの中に、さまざまな個性があることが見えてきます。
米も同じです。
スーパーの米売場は、意外にも「品種」を理解するための身近な教材なのです。
「台湾茶の流行」は茶葉専門店だけではわからない
私は台湾に戻ると、機会があればスーパーや量販店を歩くようにしています。
新商品。
飲料。
菓子。
健康食品。
米。
そして茶。
何が増え、何が減っているのか。
パッケージにはどんな言葉が使われているのか。
香り、健康、無糖、産地、原料、機能性。
そうした変化を追っていくと、その時代の台湾人が「食」に何を求めているのかが少しずつ見えてきます。
これは、台湾茶の将来を考える上でも大切な情報です。
なぜ清香系が好まれるのか。
なぜ無糖飲料が広がるのか。
なぜ産地や品種に関心が集まるのか。
その答えは、茶葉店の中だけにあるとは限りません。
スーパーは「現在進行形の食文化博物館」
博物館には、過去の文化が保存されています。
一方、スーパーには、今日の文化が並んでいます。
売れなくなれば、商品は棚から消える。
新しい嗜好が生まれれば、新商品が並ぶ。
昔からある沙琪瑪(サーチーマ)の隣に、新しい健康志向の商品が置かれる。
伝統と現代が、同じ棚に並んでいるのです。
「家樂福」(カルフール)という名前は台湾から消えました。
けれど、売場を歩く人々の生活は続いています。
茶文化を勉強する時、茶園や茶藝館だけではなく、ぜひ一度、台湾の普通のスーパーにも足を運んでみてください。
台湾人が何を食べ、何を飲み、どんな香りを「おいしい」と感じているのか。
そこまで見えてきた時、台湾茶を見る目も、少し違ってくるはずです。
茶文化は、茶壺(急須)の中だけにあるものではありません。
台湾の毎日の暮らし、そのものの中にあります。
(文章・写真:中華茶講師協会理事長・華泰茶荘五代目店主 林聖泰)
台湾文化を「知る」から、茶を「評価する」へ
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